日本の大学院から米国経済学PhD留学への出願準備について

出願準備に必要なものと実際の出願準備体験談 🚀

Image credit: MIT

0. はじめに

経済学においては、海外PhDへの留学が、一定の割合盛んであるように思われます。後にリンクを掲載するように、既に良質な情報がアクセス可能となっていますが、2019年出願組の友人たちから繰り返し質問があり、私の方でもいくつか補足できる点もあるのではと思い、この記事を執筆しました。留学中あるいは留学済、はたまた先生方におかれましては、何か追加いただける情報がありましたら、菊池(shinnkikuchi[at]gmail.com)までご連絡いただけますと幸いです。また、個別にいただくご相談に細かくお答えできる時間が取れないため、メールをいただいても対応できません。ご相談をいただくことは大変ありがたいことなのですが、まだまだ未熟な学生、調子に乗って全て引き受けていると本末転倒、本業が疎かになってしまうがゆえのこと、何卒ご理解いただければと思います。

0-1. 注意点

  • 読者として念頭に置いているのは、現在日本の経済学修士課程に在籍あるいは進学を検討していて、来年以降に米国の経済学PhDへの留学を検討されている方です。
  • 米国と書きましたが、カナダやLSEについては、共通点があるものと考えています。
  • あくまで私見に過ぎず、漏れている情報も多々あると思いますので、その点を十分注意して、自己責任でご覧下さい。
  • 私の所属する、あるいは所属した、一切の機関の意見をも代表するものではありません。
  • 無断転載や模倣などはご遠慮ください。
  • 特に、意味が変わって伝わり誤解されることを避けるため、絶対に翻訳をしないでください

0-2. 扱う内容:

  1. 自己紹介 - どんな人間が書いているのか
  2. この記事の目的
  3. トップ校への合格の厳しさ
  4. 出願に必要なもの
  5. 出願準備から留学まで(体験談)
  6. 皆さんにとって有用であろうリンク

0-3. 扱わない内容:

  • PhD留学のメリット・デメリット - 往々にして向き不向きはありますし、PhDに限らず一般的なキャリア選択同様、個々人ケースバイケースだと思います。
  • 各大学の個別の準備 - 下記は米国の大学と一部の欧州の大学にはほとんど当てはまると思いますが、各大学requirementが多少異なるのも事実です。毎年変更もあるので、いざ出願する段になれば、ご自身で各大学の出願サイトから確認されるのが一番良いと思います。

1. 自己紹介

もちろん、ホームページのトップに飛んでいただくのが早いわけですが、実際、どんな人間がどんなつもりでこの記事を書いているかを明らかにしておこうと思います。私のことを既にご存知という方はスキップしてください。

現在MITの経済学部で博士課程の学生をしております。以前は東京大学の経済学研究科にお世話になっており、東京大学の経済学部と修士号取得の間に、マッキンゼーにて一年ほど勤務をしていました。

Ph.D留学をぼんやりとながらに意識し始めたのは学部3年生の頃でした。ゼミの先輩に既に留学されている方がいらっしゃったので、OBOG会で実際の研究環境を伺い、また当時のゼミの先生方にも相談に乗っていただき、研究者として生きていくのだ、博士課程ではアメリカに留学するのだ、と考えていました。無論、その後マッキンゼーに入るなど、キャリアの試行錯誤はあったのですが、やはり、経済学の楽しさ、研究者としての生き方が自分に一番向いているということで、今の自分があるように思います。

2. この記事の目的

この記事を書こうと思った理由は大きく二つあります。一つは、私が個別にいただくご相談に全て細かくお答えできる時間が取れないためです。ご相談をいただくことは大変ありがたいことなのですが、まだまだ未熟な学生、調子に乗って全て引き受けていると本末転倒、本業が疎かになってしまうので、こうしてまとめさせていただいています。

もう一つは、日本の大学からの出願状況に対する危機感です。これが次に述べる重要なポイントです。

3. トップ校への合格の厳しさ

実際、どれだけ厳しいのでしょうか。このコラムは、私が書くことで往々にして自慢に聞こえざるを得ず、顰蹙を買うことでもあります。ただ、これまで多くの出願者が、安田先生が14年前に書かれた記事を大いに役立てていたのも事実です。さらに、出願の厳しさは身の回りの数少ないサンプルからしか推し量ることができず、そしてその厳しさを知っていただくことは、出願校の選定やひいては留学計画にも大きく影響すると思います。それらの事情を踏まえて、記事に掲載することにしました。

注意点

  • 下記に出てくる方のほとんどが直接面識のある方々で、情報も腰を据えてインターネットに向き合えば出てくる情報にしか基づいていないつもりですが、サンプルサイズが限られるため、往々にして個人が特定されかねません。もしこれを見て削除してほしい点・記述などがありましたら、ご連絡いただければ幸いです。
  • (再掲)日本の大学院から直接留学される方を読み手として想定しています。
  • 対象は2015-2020年夏に留学開始した6コホートのうち、下記の大学院の経済学博士課程に日本の大学・大学院から直接留学された方々です。
  • 合格者数ではなく進学者数を記しています。下記の大学に合格するも、他の大学に進学された方が若干名いらっしゃいます。
  • 海外の学部・大学院から留学、あるいは中央銀行などから派遣されている方は推薦状や成績基準、財政援助の状況や想定される今後のキャリアなど状況が大きく異なるため、除いています。
  • 特に2020年夏より東京大学大学院経済学研究科以外から留学される方を完全に捕捉できていない可能性があります。もしお気づきの方はご連絡いただけますと幸いです。

対象大学

  • トップ10 (MIT, Harvard, Stanford, Princeton, Chicago, Berkeley, Northwestern, Yale, Penn, Columbia)を対象にしています。
  • あくまで参考情報としてトップ5,10という言葉を使います。それらは、現在の出願生の中である程度共通認識を持たれているものの、トップ10あるいはトップ5に比肩するJob Marketの結果をもたらしている、LSEやNYUのような大学、ビジネススクール内にある経済学のPhD(特にスタンフォード)などがいくつもあり、全員が合意する定義を作成するのは非常に難しいです。また、各分野で圧倒的な成果を出している大学も数多くあります。
  • 繰り返しになりますが、ランクの高い大学に行くこと(あるいは北米でテニュアを取ること、五大誌に論文を掲載すること)が至上命題というわけでは決してないと思います。往々にしてそれは行き過ぎであり、ただのパターナリズムだと個人的には思います。ただ、全ての大学を追うことはやり出すとキリがなく私の事務能力を超えるので、あくまで厳しさのベンチマークとして、一般的に想像される、”トップ5,10”に話を限定します。

6年間の進学結果(2015-2020夏留学開始)

  • 20名 (MIT 2, Harvard 0 , Stanford 1, Princeton 2, Chicago 0, Yale 6, Northwestern 4, Penn 2, Berkeley 2, Columbia 1)
  • 20名中19名が東京大学経済学研究科で修士を終えてから出願。1名は東大医学部を経て医師経験のある方(だそうです)
  • トップ5については、毎年数人合格していた数十年前とは異なり、非常に厳しい状況。Princetonの1名を除いて、他の4名は全員マクロ系です。
  • ちなみに、Chicagoには、欧米の大学院を経て留学された、日本出身の方が複数いらっしゃるようです。
  • トップ10全体では毎年3名ほどが進学する印象。
  • ちなみに、Northwesternには、中央銀行からの派遣された方や欧米の学部を経て留学された日本出身の方が1名ずついらっしゃるようです。

考えられる理由

私は前掲の安田先生の記事を見て、かなり厳しいと感じました。その状況は今も変わっていません。私が考える原因の最も大きなものに、出願競争の国際的な激化があります。まず、出願時の情報戦において日本は大きく遅れをとっていると考えています。例えば、これはMITで現在プレドク(博士課程入学以前に、特に米国の大学でフルタイムのRAをすること)をしている中国人から「中国の大学(おそらく北京大学や清華大学を指すと思われる)では、出願に非常に熱を入れていて、実際菊池さんの名前も、私は中国にいる時から知っていましたよ。」ということでした。もちろん、ランクの高い大学に行くことが(経済学を志す学生に限定したとしてもなお)全てではありませんが、進学先の選択肢が多いに越したことはないと思います。

さらには、これはより大きな問題とも思えますが、プレドクからの出願(例えばMITやChicagoなど有名大学でリサーチアシスタントをフルタイムで2年間してから出願する)のケースが増加していることも原因としてあります。これには、研究の中身に触れ、研究経験を積めることや、指導教員から強い推薦状をもらうことができる、というメリットがあります。この記事では詳しく触れませんが、関心がある方はChicago大学の伊藤公一朗先生のツイートをご覧ください。例えば、MITのケースでは、20人程度の同級生のうち、約半分がこの英米におけるプレドクを経て入学しています。他大学の情報については不明ですが、検討の余地はあるかもしれません。

後者は私はあまり状況に詳しくないため、この記事では、前者の出願時の情報の面において、少しでも日本の皆様のお役に立てればと思います。以下では具体的に出願に何が必要か、そして私個人がどのように準備してきたかについてご説明します。

4. 出願に必要なもの

下記は、米国の経済学PhD出願を念頭においた、2020年春現在の大まかな情報です。各大学によって実際に必要な書類は多少異なるため、必ず各自でご確認ください。

4-1. 必ず必要なもの

4-1-1. 推薦状(通常3通程度、指導教授らから)

出願においては、最も重視されていると言われています。経済学において、推薦状がどれだけシリアスなものかは、林文夫先生のコメントを見ていただくのが一番良いと思います。推薦状は、成績はもちろん、卒業論文や修士論文を踏まえて、「学生がどれだけ研究ができるか」を、指導教官をはじめ学生の実力をよく知る方々に客観的に書いていただくものです。後述するライティングサンプルとも密接に関係しています。また、後述しますが、推薦状依頼は早め早めにすべきです。私の場合は11、12月出願締め切りの際は、基本的にはその年の4,5月に正式に依頼をしました。さらに、指導教官の先生を含めて、出願の相談の段から、推薦状を頼むかもしれないとのことを、お話していました。

4-1-2. エッセイ(Statement Of Purpose, 研究計画書)

最も想像しやすいものです。2ページ程度で研究の関心などをこれまでの経験を踏まえて述べます。

4-1-3. 成績(学部と大学院)

Overprepとして米国でも話題になりましたが、日本の大学からトップ校に留学された学生のほとんどが、大学院レベルのコースワーク(ミクロ経済学のMWGとゲーム理論に加えて、マクロ経済学と計量経済学)で良い成績を収めているように思います。加えて、実解析や微分方程式の授業でAをとっていると良いと思います。私は実解析のみとっていました。MITの同級生の2割程度は学部時に数学を専攻していますし(全員が理論家志望でもない)、2018年の出願時は、履修した数学の授業リストを提出させる大学が多かったです。大学院まで来て成績なのか、とも思われますが、たかが成績、されど成績です。全てが全てご自身の研究に直結するかはさておき、決定的なシグナルとなっているのは否定し難い事実です。

4-1-4. 英語スコア (TOEFL or IELTS)

TOEFLを求められることが多いです。周りの日本からの合格者は大体最低100点は取っている印象ですが、高いに越したことはないでしょう。2018年出願時には、シカゴ大学などは4セクションとも26点以上を求めていました(ただ、これは額面通りに受け取る必要もなく、少し不足していても英語要件を満たさずとも合格できたケースがあるようです)

4-1-5. GRE (General and/or Subject)

通常は、Verbal, Quantitave, Writingからなる Generalのみです。Verbalで150程度、Quantitativeで170点満点、Writingで最低3.5点、というのが周りの日本からの合格者の通説です。無論、MITにいる他国の学生に聞けば、Writingはnon-nativedでも4.5以上が当たり前のようですが、日本からは周囲には3.5で合格している人がほとんどなので、現時点ではそれ以上の点数が必要条件というわけではなさそうです。蛇足ですが、しかし、ライティングは研究者にとって非常に重要なスキルなので、苦手意識は早めに克服しておくのが良いと思われます。かくいう私も、スライドは作れるものの長文となればやはりノンネイティブ感が出てしまうので、ライティングの授業を履修し、ライティングセンターにも通う毎日です。

4-2あると望ましいもの

4-2-1. ライティングサンプル(研究成果の一端)やCV(レジュメ)

多くの大学で求められます。私は修士論文のダイジェスト版を提出しました。「ライティングサンプルは読まれない」という話も聞きますが、MITの複数のfacultyに、「論文面白かったからpushしたよ」と言われたので、少なくとも、全ての大学でその主張が当てはまるわけではないと思います。また、ライティングサンプルは卒業論文や修士論文のダイジェスト版になることが通常だと思いますが、その過程も、推薦状を書いてくださる先生方は評価してくださるわけです。仮にライティングサンプルが出願先で読まれないとしても、卒業論文や修士論文で良いものを仕上げることは非常に重要だと思われます。

4-2-2. 外部奨学金

通常、トップ校では学費免除かつ生活費支給がなされますが、大学によってはそれがない場合もあります。また、大学側が提供するにせよ、自分から奨学金をとってくることで、加算されたり、TAやRA負担義務が免除されたりします。奨学金を獲得することで一定のシグナリング効果がある他、大学側からしても外部奨学金を持っている学生の方が大学の負担が少ないため、有利になりことは間違いありません。私は中島記念国際交流財団様にお世話になっていますが、東大のまとめページにかなり包括的にまとまっています。

5. 出願準備から留学まで(体験談)

上記のそれぞれのアイテム説明を踏まえて、PhD留学をしようと思った時に何から始めるべきなのでしょうか。本節では、私の体験談を、PhD留学を学部三年生に遡って書いてみたいと思います。上の情報で十分で、あとは自分で進めていきます、という場合は読み飛ばしてくださって結構です。

5-1. 2014-2015年度:学部生(東京大学経済学部)

数ある出願に必要なものの中で、長期戦になるのは推薦状の準備と成績です。逆に言えば、出願の際に必要になるもので、準備が一年以上かかるものは、推薦状と成績のみだと思います。推薦状を先生方に書いていただくお願いを実際にするのはその年の夏より前であれば十分かと思いますが、推薦状に書いていただく内容は、半年何かを頑張っただけでは、基本的には判断材料として不十分だと思います。私の推薦状依頼のタイミングなどについては、5-4-1で後述します。

私は学部三年生の時は、学部卒業に必要な科目の履修と、複数のゼミでの各科目の基礎固めに注力しました。コア科目を3年生から履修する同級生もいましたが、私はまだ準備不足だと感じたため、4年生で集中的に取り組むことにしました。

学部四年生で、全ての大学院コア科目(ミクロ・マクロ・計量)を履修しました。特に、4年生の冬学期は、膨大な宿題が出る計量経済学が週2コマあったほか、ミクロ、マクロに加えて、複数のゼミと、卒業論文が重なり、非常に忙しい毎日を送りました。結果としてBをとってしまった前半のコアミクロ経済学1を除いて全てA以上で通過できました。

卒業論文では、当初は金融政策に関する非常に意欲的なプロジェクトに取り組んでいました。シンプルなモデルのアイデアと実証分析を終えて、本格的にモデルを解いてみようか、となった矢先に、同様の論文が同時期にトップジャーナルに公刊されたことを知りました。結局自分のプロジェクトにはなりませんでしたが、この経験は先生方にも高く評価いただき、また良い経験と自信にもなりました。コア科目に集中するために卒業論文は手を抜いて、という声がたまに聞こえていましたが、私自身は、懸命に取り組んで良かったと思っています。

全てのコア科目を学部生のうちに履修するのは大変ですが、東京大学経済学部の学生で留学を考えていた学生は、ミクロ1,2、マクロ1,2、計量1,2の6科目のうち、平均して4つ程度は学部のうちに履修をしていたように思います。無論、修士に入ってから履修している学生も多くいるので、無理することはないと思いますが、トライすることに価値はあると思いますし、自分が経済学が好きかどうかを判断するには一つのベンチマークになると思います。

また、日本の大学でこのようなコースワークを受けることが苦痛で苦痛で仕方ないということであれば、もしかすると経済学PhDへの進学がベストのキャリア選択肢ではないのかもしれません。留学のことで頭がいっぱいになってくると、「トップ5のPhDプログラムに合格する」という狭窄なことが、最大の目標になってしまうことがあります。就活で良い会社に入ることが目的になっている、その状況と同じです。このページをご覧になっている方の背景を想定するに、実はこれは珍しいことではないように思います。しかし、言うまでもありませんが、あくまでPhDは一つのキャリアパスであり、他にも多様なキャリアパスがあります。この記事はあくまで、経済学PhDを出願しようとされる方に向けて、何か参考になればと思い、作成しているものですので、決して、トップのPhDプログラムに合格することが良いことだ、そうすべきだ、と述べているわけではない点、ご承知おきいただければと思います。

5-2. 2016年度:大学院1年目(東京大学経済学研究科)

前半は残りのミクロ経済学1を履修する他は、将来の研究は何をしようかと考えていました。いろいろなアイデアを出しては論文を読み、ということを繰り返していたのですが、その過程で行き詰まり、本当に経済学は自分に向いているのだろうか?と自問自答した結果、たまたまマッキンゼーという素晴らしい企業に出会い就職することに決めました。その当時、指導教官の先生に相談していたメールでは、私はこう書いていました。

中期的なキャリアとして、政策の意思決定者に知見を提供する立場で世の中に関わりたいとずっと思っておりました。しかし自分の中で、それが経済学の知見なのか、実務経験からくる知見なのか、どちらの「間合い」が自分に向いているのかが自分の中で曖昧になることが多く、少し迷っていました。そうやって自分にコミットメントするだけの覚悟が、先輩方とお話しする中で、相対的にまだ薄いのかな、と感じいていたので、実務(民間企業がいかに動くのか)の世界を一度見てから判断するのは自分にとって悪くはないのかなと思いました。

これは一般的なキャリアについての悩みであったので、深掘りせずに次に進みます。

5-3. 2017年度:マッキンゼー時代

マッキンゼーでのことは契約上詳しく書くことができない上に、この記事の趣旨ではないので、基本的に割愛します。朝から晩まで働いて、夜になったら東大の研究室で数時間勉強、週末は勉強会をするなどしていました。 実際身体を壊しかけた時期もありましたが、完全に経済学から離れなかったことが良かったと思います。

仕事はほとんどが英語なので、英語のレッスンをインテンシブに受けることができ、思わぬ副次効果として、TOEFLのスコアが準備できました。115 (R30 L30 S26 W29)という問題ないスコアを取れたので、ここで打ち止めです。後述するように、TOEFLとGREのスコアは、毎年日本からの出願者が最後になって慌てるものです。余裕を持ってスコアを確保してください。特に注意点は、頻繁に改訂されるので具体的な日にちは書きませんが、ある一定期間中に受ける回数に制限があることです。公式ホームページで確認することをお勧めします。また、繰り返しになりますが、TOEFLは早めに100点以上、GREは数学で満点、ライティングで3.5点以上を確保することが、2019年現在、出願者の中では、ほぼ必要条件と認識されています。各大学様々な制約や要求があるかと思いますが、最低限上記のスコアの確保を計画されるのが良いかと思います。

マッキンゼーはとても素晴らしい環境で、もし世の中に経済学というものがなければ、私は今もマッキンゼーにいたと思います。働くうちに、「問いを自分で立てる」ということを想像以上に、自分が大切にしていることがわかり、また経済学の魅力も、外から見ることで再発見でき、さらには取り組みたいリサーチクエスチョンも発見でき、1年少しでアカデミアに戻ることにしました。

5-4. 2017年度:大学院2年目(東京大学経済学研究科)

ここから一気に具体的な出願準備に入ります。11-12月に出願締切となっている大学が多いです(各大学各プログラム締め切りはバラバラなので、各自ご確認ください)。そうなると、4月ごろには本格的に準備を始めます。外部奨学金の応募と推薦状の依頼、加えてTOEFLとGREのスコア確保を急ぎます。その後、夏頃から出願校の選定、エッセイやライティングサンプルの作成に取り掛かり、11月からいよいよ出願です。

私は、その当時は、推薦状の目当て、大学院コアの成績、英語スコアが既にあり、数学の成績、エッセイ、GRE、ライティングサンプル、外部奨学金に取り掛かることが明確になっていました。

5-4-1. 4月から8月:推薦状依頼、数学・修論・外部奨学金・GRE

何よりも重要なのが先生方からの推薦状ですが、本年出願し推薦状をお願いしたい旨を、正式に、推薦状を書いていただきたい先生方に連絡します。私の場合は一年以上前から、指導教官の先生と、学部ゼミの先生方に、出願の相談をしていたので、5月頃に改めて正式に依頼をしました。また、4月から7月の学期の授業において、自身の研究に非常に近い先生のフィールド科目を履修したので、その先生には8月になってから依頼をしました(これは遅めです)。

またその過程で、数学の成績が弱いと思ったので、実解析の授業を駒場の後期教養学部統合自然科学科で履修しました。伊藤清三先生のルベーグ積分の教科書をベースにした素晴らしい授業で、楽しめ、Aを獲得できました。

修士論文はリサーチクエスチョンが明確にあったので、どのモデルが一番簡単か考え、書き始めました。指導教官の先生が非常に熱心かつ的確・適度なアドバイスをくださったおかげで、順調に進めていきました。

外部奨学金の重要性はすでに述べたとおりです。そのため、応募できる限り全て応募することが重要です。東大のまとめページにかなり包括的にまとまっています。出願校の選定は近年激化する競争を考えれば、かなり重要になってくると思います。かなり個別の事情が関係してくるので、実際の選定は推薦状を書いていただく先生、指導教官に相談するのが最も正しいかと思います。夏までに応募締め切りで、秋以降に面接が集中しています。毎年変更があるので、各自ご確認ください。私は中島記念国際交流財団様に採用をいただき、現在もお世話になっています。

GREは少し苦労しました。VerbalとQuantitativeについては2回で目標点に到達したのですが、ライティングが一向に上がらず、困りました。結局9月以降に持ち越しです。

5-4-2. 9月から12月:出願校確定、GRE駆け込み、SOP、ライティングサンプル(修論ダイジェスト)

12月に締め切りとなる大学が多い中で、各大学の出願ポータルがアクセスできるようになってくる頃です。まずやるべきは、出願校をざっくり確定し、出願に必要なものリストを再確認し、先生方に推薦状を公式に依頼することです。ここで、先ほどの進学データが活きてきます。

より具体的には、推薦状を書いていただく先生方、特に指導教官の先生と、出願校にあてをつけていきます。近年の競争激化を背景に、高プロファイルでも偶然が重なり全滅ということもあるので、コストも見ながら(出願料が各大学1万円程度かつ、TOEFLとGREのスコア送付も出願校数に比例して増大。さらには先生方の負担も増えるので、ただ出願校が多ければいいわけではない)、検討していきます。以前は、ある大学ではドロップアウトが合格者が多い分、1年目の授業でキックアウトされる可能性も高いからハイリスク・ハイリターンである、ということで、例えばChicagoなどが敬遠されていたそうですが、現在は20人強が入学して、1人キックアウトされるかどうか、という状況にもなっているようです。また、各大学先生方の移り変わりが激しいケースもあり、誰か一人の先生を目当てに出願すると、移籍してしまった、というケースもあります。常に最新の状況を把握することが大切かつ、指導教官の先生としっかり相談してください。ちなみに、私は、上記のトップ10に加えて、マクロの強いNYU、LSE、Minnesota、Brownという合計14校への出願を決めました。これは実は少ない方で、同級生の中には20校程度出している人もいました。

GREが終わっていなかったので、ライティング専門の先生をネットで見つけ、駆け込み修行を行いました。これが大当たりで、結果として、3週間で3.0から4.5まで上がり、最終的にはV154 Q170 AW4.5という、特に問題のない成績を取ることができました。「試験」とはまさにパターン認識・訓練なのだと実感した次第です。

SOPは、米国の各大学の先生のResearch Statementを真似て、どのような研究に関心があるかを、修論やRAなどで関わったこれまでのプロジェクトを中心にまとめました。自分のリサーチアジェンダにワクワクしていたので、内容を書くのは非常に簡単で、何度も英文校正にかけて提出しました。英文校正はScribbrというサービスを使いました。

ライティングサンプルは、修士論文のダイジェスト版です。No Free Lunchということで、ぜひこの記事が役に立った場合は、私の論文のせめて要旨は読んでいただきたいのですが、ほとんど同じものをライティングサンプルとして、提出しました。

以上が揃えば、あとは鬼の事務作業です。各大学の細かい要求に応じて、数々の書類の調整を行い、出願完了です。

5-5. 合格発表

精神的に最大の難関はここです。合格発表の時期は、年度によって、あるいは人によってバラバラで、2月頭頃からポロポロメールが届きます。あえてリンクを貼りませんが、いわゆる経済学PhD出願勢の2ちゃんねる掲示板(例えが古いが、情報のクオリティも含めてそんなものです)に、XX大学からオファーがきた!などと書かれていくのを見ながら、今か今かと連絡を待ちます。上記のようなトップ校への厳しさを人伝に聞いていたのと、私の年度には強力な同級生が複数同時に東京大学大学院経済学研究科から応募していたので、どこかに受かれば万々歳という気持ちで2月を待っていました。

ところが、私は非常に幸いなことに、2月14日にYaleからこんなメールが届き、一気に一安心でした。

Congratulations! We are delighted to inform you that you have been selected for admission as a full-time doctoral student in Economics starting in the 2019 fall term.

その日は家族旅行の前日で、このまま不安な気持ちだと楽しめないな、とフワフワしていた記憶があります。するとさらに驚くことに、その翌日の早朝、まさに今から羽田に向かって高松へ飛ぶかと、家を出る瞬間に、MITから、

Let me be the first to congratulate you on your admission to the PhD Economics program at MIT

なるメールが来たのでした。その後3月にかけて続々と結果が届き、合格した中から、検討先をMIT, Yale, Berkeley, NYUの4つに絞りました。

5-6. 進学先決定

3月末から4月にかけて、各大学は、オファーを出している学生に対して、是非うちの大学に来てほしいということで、キャンパスビジットや有名教授からのメール合戦を仕掛けてきます。残念ながらMIT, Yale, Berkeleyの日程が丸かぶりしてしまったので、当初はMITとNYUだけビジットする予定でしたが、Berkeleyにいるマクロ経済学の大家が長電話をしてくださり、また大活躍する若手スーパースターが電話でもメールでも熱心に勧誘くださり、日程を変えてでもいいから、カスタマイズのスケジュールを私が組むからビジットだけしてほしい、と言ってくださり、ビジットをすることにしました。

MITも負けておらず、あるマクロ経済学の大家とスカイプをし、私の研究分野に最も近く、また21世紀最大の経済学者と呼び声の高い教授からも私のSOPと修士論文を読んだ感想も含めて長いメールをいただいたので、簡単に Berkeleyと決断するわけにもいきません。

NYUに3月末行った時には、「いや君はMITに行きなさい。」となぜかNYUの先生方に言われる始末だったので早々と候補から脱落、BerkeleyとMITをビジットしたのですが、両方とも先生方が教育熱心なカルチャーでかつ、私の興味関心に近い先生方がとてもよくしてくださったので、かなり悩みました。

BerkeleyとMITのビジットは本当に素晴らしいものでした。Berkeleyでは、ある教授が私のためだけに完全に個別スケジュールを組んでくださり、マクロ系と労働経済の先生全員と2日間にかけて、30分ずつ面談ができました。MITは大学の指定した2日間に出向きました。こちらもまた、プロのアシスタントの方のおかげで、マクロ系と労働経済の先生全員と2日間にかけて、30分ずつ面談ができ、いくつかの授業やセミナーにも参加することができました。どちらに行っても本当に幸せになれるな、と感じました。

決断の最後の決め手は、直感だったのですが、「どちらがアットホーム」に感じるか、ということで、より小規模かつ、ケンブリッジの街もどこかヨーロッパぽく(治安よく落ち着いている)、かつ実は学部生の時にHarvardに一学期いたため住み慣れていたこともあり、MITを選択しました。

今回の私の進学先決定ではあまり関係なかったのですが、大学によっては奨学金付きオファーを最初は提示されない、あるいは授業料がカバーされないなど、想定より低いケースがあります。日本ではあまり一般的ではありませんが、米国での一般的な就職活動同様、オファーの値上げ交渉をすることは特に間違ったことではありません。交渉文化を知らない学生が誤って喧嘩腰に書いてしまうケースもあるので難しいですが、他大学からのオファーを提示して、同様の条件まで引き上げてもらうことは、仮に大学にとって出願者が非常に魅力的であるが、財政上奨学金を確約できない時に、有用かもしれません(もちろん一切上がらないケースもありますのでご注意ください)。例えばusnewsに掲載されている、交渉のやり方の記事などをご覧いただければ、イメージは掴めるはずです。

5-App. 一年を終えて

MIT経済学部博士課程では、米国他大学の理系・経済学博士課程同様、最初の二年はコースワークと呼ばれる講義が中心、その後は本格的に研究に入っていきます。コースワークの中にも博士課程の学生全員が履修する必修コア科目(クオーター制)と、選択フィールド科目(学期制)に分かれています。

一年目一学期は、コア科目は、前半は、統計学、ミクロ経済学1、動学最適化、後半は、応用計量経済学、ミクロ経済学2、経済成長論を履修しました。フィールド科目は、労働経済学1を選択しました。

その中でも、コア科目のほとんどは、東京大学の経済学研究科修士課程で学んだことが基礎となっていて、より発展的な内容に集中して取り組むことができた一方で、フィールド科目は、日本で提供されているものとは趣旨が異なり大変意義深いものでした。具体的には、「ある経済学の特定の分野において研究を始めることができるレベルに学生を引き上げる」ことに主眼が置かれており、大量のリーディングや課題に格闘する毎日となりました。私の研究課題である、「技術革新が格差、ならびに総需要を通じてマクロ経済学に与える影響」にも関連のあるトピックがいくつか出てきていて大変参考になりました。来年春学期も引き続き労働経済学2を履修し、冬休みも授業で紹介された論文を読むなど、継続して、深掘りしていきたいと思っています。

本格的な研究に取り組む前に、コースワークでみっちり学ぶ、というのがスタイルなのですが、そうは言っても、いくつか自身の研究につながることをしています。一つはリサーチアシスタントです。Josh Angrist教授というノーベル賞間違いなしの、計量経済、労働経済学を専門にする先生からコア科目の応用計量経済学とフィールド科目の労働経済学の授業で積極的に発言していたことを評価され、リサーチアシスタントをやらないかとオファーをいただきました。機械学習の手法が労働経済学の分析にどのように役立つか、というプロジェクトに加わりました。プロジェクトもさすが超一流の研究者、やるべきことが明確で、アイデアから実行までのサイクルが前職マッキンゼーと変わらないスピードで参考になります。また何よりも、距離近く研究の話ができるのは大変ありがたいことだと思っています。

もう一つは同級生との研究アイデアのディスカッションです。近年、経済学では、トピックに応じて用いる手法がかなり専門的かつ複合的になってきていて、一本の論文の中でも全ての分析を一人で行うことは困難を極め、共著でのプロジェクトが通例となってきました。同級生20人少しの中にも、似たような関心を持つ学生は数名おり、彼らと最近の論文や、それぞれのアイデアを持ち寄って、定期的にディスカッションを重ねています。いくつかは数年後に実際のプロジェクトとなりそうなくらいの見込みがあるので、継続していこうと思っています。

一年目二学期は、コア科目は、前半は、ミクロ3(意思決定理論)、マクロ3(景気循環論)、後半は、ミクロ4(契約理論)、マクロ4(金融危機)を履修しました。学期を通して、コア科目の計量経済学とフィールド科目の労働経済学2を選択しました。どの講義も非常に良く準備されていて、楽しめるものでした。

現在は、Daron Acemoglu教授、David Autor教授のプロジェクトにRAとして参画させていただいており、同級生とのプロジェクトとともに、夏にかけて生活の中心になってくるものと思います。

6. 皆さんにとって有用であろうリンク

最後に、この記事では書ききれていない数々のトピックをカバーしている先生方のホームページのリンクを転記しておきます。

最後に

今こうやってこの記事を書いているのは、ここに至るまでに、先生や先輩方を中心に様々な方々にお世話になったので、それを次の世代に恩返ししたい、というモチベーションです。この記事が、少しでも日本から経済学PhDへ出願する皆様の情報収集に寄与すれば幸いです。

あくまで私見に過ぎず、漏れている情報も多々あると思いますので、その点を十分注意してご覧下さい。何か追加いただける情報がありましたら、菊池(shinnkikuchi[at]gmail.com)までご連絡いただければと存じます。

繰り返しになってしまいますが、個別にいただくご相談に細かくお答えできる時間が取れないため、メールをいただいても対応できません。ご相談をいただくことは大変ありがたいことなのですが、まだまだ未熟な学生、調子に乗って全て引き受けていると本末転倒、本業が疎かになってしまうがゆえのこと、何卒ご理解いただければと思います。

なお本記事の作成・改訂にあたって青木浩介先生(東京大学)、朝見絢二朗氏(Yale)、安藤嘉基氏(Penn)、小野田喬氏(Chicago)、奥村公貴氏(東京大学)、甲斐隆之氏(元トロント大学)、片山由将氏(Northwestern)、北尾早霧先生(東京大学)、福井真夫氏(MIT)、前場謙輔氏(Northwestern)から有益な助言を頂きました。記してお礼申し上げます。言うまでもありませんが、この記事の責任は全て私に帰するものであり、助言いただいた上記の皆様には、私の記事の内容や誤りについて、一切の責任がないことを明らかにしておきます。

Copyright © 2020 Shinnosuke Kikuchi All Rights Reserved.

Avatar
菊池 信之介 (Shinnosuke Kikuchi)
Ph.D. student at MIT Economics

Ph.D. student interested in Macroeconomics, Technology, and Inequality